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「お腹に手を当てることの医学的意義を考える」

 

治療室の患者さんに、しばしば就寝前等に自分のお腹に手を当てるようにお伝えしています。

よく休まり、心身の回復によい影響があります。

これは野口整体の腹部調律点の見方からの提案です。

整体は経験則なので実績のあることをお伝えしていますが、私の経験上も効果は高いようです。

代替療法の場合、多くは医学的根拠は後からついてくるものとはいえ、ただ鵜呑みにせずに考えることは大事です。

何か不思議なことにすがるようなことになってはいけません。

 

さて、お腹に手を当てることの医学的な意味は何であろうかと考えますと、ポージェス博士のポリヴェーガル理論を思い出します。

危機的な状況が起きた場合、身体は闘うか逃げるかという状態に入ります。

さらに強い生命の危機の場合は、極度の交感神経の興奮に対し背側迷走神経(※)が強いブレーキをかけて「不動化」という反応が起こります。

(※迷走神経は副交感神経の主な経路です。背側迷走神経は横隔膜より下の臓器、主に消化器系に分布します)

 

迷走神経にはもう一つ腹側迷走神経というのもあります。

ポリヴェーガル理論では腹側迷走神経は社会性の神経であると言われ、人と人との関わりを司ります。

腹側迷走神経がよく働いている状態では安心と安全を感じ、他者とのコミュニケーション等の社会性を発揮しやすくなります。

ポリヴェーガル理論では、腹側迷走神経の働きを利用して、トラウマのケアに役立てています。

不動化が起こる状況はトラウマになってしまうことが多く、似たような状況や、トラウマの原因となった出来事を思い出すことでも不動化に近い状態になってしまいます。

不動化を起こす背側迷走神経、また闘争/逃走を司る交感神経の反応を、腹側迷走神経によって調節して、目の前の危機的ではない状況に適応した安心・安全な心身の状態になることを目指します。

 

以上を踏まえて、お腹に手を当てることは何故よいかという考察です。

考察なので、実際のところはどうなのか正確ではありません。あくまで「こういう可能性もあるのでは」という仮説です。

消化器に背側迷走神経が分布しますので、お腹に手を当てることで消化器から背側迷走神経を落ち着かせることができると思います。

背側迷走神経は脳幹に情報を伝達する役割もありますので、手を当てるという穏やかな刺激によって、今は安全であると感覚できるのではないかと考えています。

不動化しなくてよい状況であることを脳幹に伝えるわけです。

安全であれば背側迷走神経が分布する内臓の働きも活発になり、消化・吸収・同化が促され、心身の回復力も高まります。

また、腹側迷走神経も中枢は脳幹ですから、背側迷走神経からの安全であるという情報をもとに、腹側迷走神経によって社会性を発揮しやすくなってくると思います。

 

迷走神経へのアプローチ、作用はいろいろあると思いますが、シンプルにお腹に手を当てることの効用について簡単に考察してました。

要するに、お腹に手を当てると安心する、それが心身の回復力を高める、トラウマからの回復にも良い影響があると考えられるというお話です。

やることは、ただお腹にじっと優しく手を当てるだけです。

よかったら参考になさってください。

 

皆様のご健康とご多幸を願います。

 

 

さとう接骨治療室

 

 

写真:Nandhu Kumar