書の体、技術の体(1)

 

 私は少しだけ書道をやります。書道というのは面白いです。筆で字を書くだけのことです。

しかし、それを観て良いとか、今一つだとか感じます。

また、書いていても「うむ、良い出来だ!」とか「駄目だ、線に深みが無い!」とか言って、

ああでもない、こうでもないと稽古していきます。

 

 書道では、必ずしもいわゆる「きれいな字」というのを求めません。

今どきの美文字というのは書の古典、名品の多くと比べると、だいぶ形が違います。

今の美文字の原型は、中国は唐の時代にあるようです。

 

 唐の時代に欧陽詢(おうようじゅん)という書の名人がいました。

この人の筆による「九成宮醴泉銘」というのが楷書の模範、「楷法の極則」として、現在も強い影響を及ぼしています。

すごいですね。

 稽古してみると、きれいなだけではない、厳しいバランスで成り立っているのがわかります。

まさに名品。九成宮は美しく、厳しく、素晴らしいのです。

 

 しかし、書の名品は他にもあります。

北魏の楷書、漢の木簡などは今の美文字感覚からすると、ただの癖字です。本当に癖字です。

でも、書の稽古では大事なお手本です。

 なぜ稽古するのかと考えますと、特徴的な線の質や形体の美しさを学ぶ事はもちろんですが、

体の鍛錬という面があると思います。

 たとえば北魏の楷書を稽古していると、時折、腰肚のあたりに力が籠るような感じがします。

すると線に強さが出ます。北魏楷書を学ぶ目的の一つに「線を鍛える」という事を言います。

線の強さは鍛錬された体から出ますが、筋力ではない強さです。筋トレをしても書は強くなりません。

老齢の先生や小柄な婦人でも強く厳しい線が出るのは、筋力でない体の強さから出るものだと思います。

 

 北魏は騎馬民族の国でしたので、乗馬に秀でた強靭な足腰だったと思います。

その強い足腰から生まれたのが、強く厳しい魁偉な北魏楷書だったのではないかと思っています

(※あくまで好事家の推測です。専門に学んだ方がどう思われるかわかりません)。

 

*北魏楷書の名品。

『牛撅造像記』です。

*唐楷書の名品。

『九成宮醴泉銘』です。